インタビュー

【住み継ぐ家】ガイナーレ鳥取、高島 祐亮さんの人と人をつなぎ、価値のバトンを未来へ渡す暮らし

高島 祐亮さんは、サッカーJ3 ガイナーレ鳥取で働くこと(株式会社SC鳥取 経営企画本部長、株式会社GTベンチャーズ 代表取締役)をきっかけに、境港市に空き家を探し、リノベーションを行いました。DIYには、サポーターや鳥取で出会った知人も参加。完成後は、地元の人やクラブを取り巻くたくさんの方々が集まり交流する場になっています。実際に家を体感し「この家に住みたい」と感じる人も多いそう。高島さんの住まい、SAKAE HUBを訪ね、住み継いだ家の日常や、暮らしの豊かさについて聞きました。

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白石:リノベーションの設計をさせていただいた高島さんの家は築50年。猫ちゃんも住んでいるんですよね。

高島さん:白猫のだいふくと一緒に暮らしています。新居では猫を飼おうと思っていたんですよ。クリエイティブなことが好きなので、家づくりにはリノベーションを選択しました。

白石:私のまわりには、この地域でかっこいいと思う職人さんがたくさんいます。本当に生き方が素敵なんです。

高島さん:鳥取県って、ものづくりをしている人が多くて、すごい技術を持った職人さんが近くにいます。最近、弓浜絣のイベントに行って感じたのは、「めちゃくちゃいいストーリーがある」ということ。でも地元に暮らしているみんなは、意外とそのことに気づいていないんですよね。

白石:他県出身の高島さんが、鳥取を大事にしているって面白いですね。今日は、高島さんの家づくりの「ルーツ」と、住み継いだ家での日常について、じっくり聞いてみたいと思います。

鳥取の日常をよく知っている人に設計してもらいたい

白石:家づくりを考え始めたのは、いつからですか?

高島さん:2017年にJリーグからガイナーレ鳥取へ出向してきました。その2年後に、ガイナーレで働くと決めたときからですね。

僕はクラブの力をスポーツはもちろん、社会や地域の課題解決にも向けられると思っていて、課題の当事者になってみないと、と思ったんです。

見たり聞いたりはするんですが、当事者じゃないとわからないこともたくさんあるはずだと思いました。

家を選ぶための条件は、大山がきれいに見える場所にあること。それと、東京に行く機会が多いから、空港へのアクセスの良さも考えました。そんなこんなで、1年半くらい探して、見つけたのがこの家です。

白石:このサイズの家は、なかなか見つからないですよね。しらいし設計室にリノベーションを依頼したのは、なぜですか?

高島さん「中古住宅を選ぶときは、事前にホームインスペクション(住宅診断)をしようと思っていて、ホームインスペクションについて調べていました。問い合わせた先から紹介されたのが、白石さんでした。

白石:私は既存住宅診断士であり、一級建築士でもあるので、「建てる」「直す」「こわす」が判断できる設計士です。

高島さん:サッカー業界でも、試合前にインスペクションをやるんですよ。ピッチを1周して、ネットの張り具合やコーナーフラッグの位置などを確認するプロセスがあるんですね。

完璧じゃないとすまないとかではなくて、僕はあんまり完璧を求めていなくて、壊れても直していくプロセスも全然アリだと思っている。その点が、白石さんと似ているんです。白石さんは手帳をずっと使い続けてたり、革が好きだったり。僕も同じなんですよ。

白石:劣化と捉えるか、エイジングと捉えるかの違いですね。ゼロから新しくつくるのではなくて。

高島さんそのあたりの価値観は、目に見えない骨格の部分。価値観が合いそうだなというのが、白石さんに依頼する決め手になったんじゃないかな。

それに、この地域の企業や住んでいる人に依頼したかったんです。サッカークラブで、地域や人とのいろいろな結びつきをつくっていくのが僕の役割で、新しいつながりや、昔からのつながりを大切にしています。何か困ったことがあっても、相談できる人が近くにいるっていうのは、すごく大事だと思うから。

冬の寒さや風の強さにしても、数字だけじゃ測れない部分を、地元の人なら分かっているはずだと思いましたし、家もこの地域を知ってる人につくってもらいたいって、思ったんですよね。

サポーターや知人と一緒にDIY。人と人の交流の拠点になる家をつくる

白石:家が完成するまで、何度も対話を重ねましたね。

高島さん:白石さんは、価値観を重視してヒアリングをされていますよね。家づくりの面談が、お金の話から始まらないっていうのは大事じゃないですか。「この予算でこういうことをしてください」みたいなご依頼は、僕からもしていないんですよね。

家づくりのプロにご提案いただいて、自分がこだわりたいところを組み入れてもらう。そういうつくり方をしたかった。自分がしたいことを100%実現してほしいとは思ってなくて、初めからそれを望んでないんですよ。

プロをリスペクトするってすごい大事だと思っているから、要の部分はプロに任せる。ときには「そこは、施主さんの遊びごころを取り入れていいよ」って、プロから言われることもある。そういう距離感が一番良かったかな。

白石:高島さんは、提案に対して「あ、いいっすね」と答えてくださいました。

高島さん:「こんなふうにしたいね」って、白石さんからご提案いただく感じで見積もりを出してもらって、「ここはそこまでこだわらないので」って僕がお願いする。意見の飲み合いは、お互いに必要なんじゃないかなと思うんです。

白石:実際に家づくりが始まると、柱を取り替えないといけないと分かって、現場で大工さんと相談して、新しくしたところもありましたね。加えて、高島さんの家のある地域は、「砂嵐の町」。長年にわたって吹き込んだ砂が多くて、天井を落とすときにドーンと降ってきたことや、謎の獣の巣が見つかったことも覚えています。

高島さん:当初は結構、ボロボロな状態。でも平屋で、屋根だけはしっかりしてました。リノベーションの最後は、白石さんも一緒にやってくださったし、ガイナーレ鳥取のサポーター有志に「一緒にやろうよ」と呼びかけて、内装の壁はみんなで塗りました。だから今でもその時の方がときどき来るんですよ。この家の目的は、人と人の交流の拠点にして、「リノベーションして住むとこういう価値が生まれるよ」って伝えることなんです。

白石:家づくりを仕事にする私たちがやらなければならないことを、高島さんは自らやってくれているように感じます。

高島さん:自ら取り組む生活実験なんです。僕は人が家に来ることもウェルカムなんで。

白石:建物としてのスペックもかなり高いものになりましたね。気密シートを貼っているから、砂が入ってくるのを防ぎ、断熱性能も十分です。必要暖房能力を計算し、「この部屋で必要なのは、これくらいの機能のエアコン」だと判断したのですが、暮らしてきた5年間の体感はいかがですか?

高島さん:夏はエアコン1台で、大丈夫です。冬もエアコンとこたつ以外は使ってないですね。

地域や人と支え合い「足るを知る」

白石:日常の豊かさと聞くと、何を想像しますか?

高島さん:「足るを知る」という、好きな言葉があって。豊かになろうとすることは、足し算をつづけるイメージ。でも「もう十分に幸せだよ」「もう豊かだよ」って、気づくことが豊かさだと思うんです。

たとえば「子どもが元気でいれば、それでいい」みたいなニュアンスですね。「成績がどう、ここの大学には入らなきゃ」と考えるのは、すこし自分的にはエゴっぽく感じてしまって。「生きて、笑っているだけで十分だよね」って思う時があるんです。その瞬間に豊かさがぐっと上がる気がするんですよ。

いい車に乗って、豪華な家に住んで、ハイブランドを身につけるのを、豊かさだと感じる人もいると思うんです。でも、豊かさの定義を自分自身の中に持っていれば、目に見える「正解」に自分をあてはめなくてもいい。要は自己肯定感じゃないですかね。「これで、十分だよね」と、足ることを知る、それが僕にとっての豊かさです。

白石:賃貸と比べて、暮らしの快適さは変わりましたか?

高島さん:自由ですよね。外でバーベキューしたり、いろんな人を呼んで合宿もできる。家族が泊まりにくるときや、知人が相談しに来るとき、サポーターのみなさんが集まってお茶するとか、いろんなシチュエーションに応えられるのは、持ち家ならではですね。それに、ここに引越す前から地域の自治会に入りたいっていう思いもあったんです。

白石:いいですね。高島さんは、自治会の活動をどのようなものだと捉えていますか?

高島さん:地方独特の在り方があるんですよ。めんどくさいと思われているけど、僕はほんとにそうなのかな?と思ってました。「良し悪しはあるんだろうと思うけど、自分で体感してみよう」そう思って、引越してきてまず自治会長さんの家を調べて、自治会に入らせてくださいってドアノックしました。

実際、無駄な部分も確かにあるかもしれないし、入らないとダメってわけじゃない。だけど自治会に入ると「どこで働いてるの?」とか「何でここに来たの?」みたいな会話が生まれるわけです。

1年目は、地域の人にすこし警戒されていたかもしれませんが、社会体育の役員をやらさせてもらったり、運動会に出たり、いろいろ関わるうちに、人となりをわかってくれて。「ガイナーレ勝ったね」、「選手来たら教えて、サインもらいに行くから」と声をかけてくれるとか、じゃがいもなど野菜をくれることもある。そういうのは、生まれ育った地域では体感したことがなかったんですよね。

白石:私は近所の人の中で育って、今でもつながっているから、自治会があることが当たり前なんです。そういう環境では、なかったということですか?

高島さん:なかったですね。両親もそういうのは、あんまり好きではない感じで。だけど僕は、常に疑って世の中を見るタイプだから。

ガイナーレ鳥取での活動や白石さんの仕事、自治会も含めて、根本には持ちつ持たれつの関係があるじゃないですか。年を重ねれば重ねるほどに、支え支えられていることが分かってきたんです。

でもそれを当たり前だと思っちゃいけない。変に「当たり前スイッチ」が入ると、不公平だという感覚や苛立ちが出てきてしまうんですよね。

家族の時間っていうのも、もちろん大切。でも僕は普段、家族と離れて暮らしているから、その分、人付き合いの方にフルスロットルなんです。周りを見渡すと大人になるにつれ付き合いの面積が減っていく傾向があると感じます。そして同時にギブ・アンド・テイクを繰り返さないと、人付き合いってなかなか継続できない。支え合える人の数が、最終的には大事になるんだろう、と思っています。

白石:高島さんは、ITのスタートアップでの経験も長いですよね。自治会のあり方との間に、ギャップを感じませんでしたか?

高島さん:そこはあまりなくて、なぜなら幼少期から大学まで、書道をずっとやってたんです。書って、合理性では割り切れない芸術。ITにしても、人の不便だなという感情を、ITで解決してるだけだから。合理性はもちろん必要だけど、感情も捉えながら、両面を楽しめる性格かなと思いますね。

実際「友だち何人できるかな」が、45歳になった今でもテーマですからね。それって、節目には手渡しでプレゼントを渡すとか、人付き合いの丁寧さが大事になるってことなんです。

変かもしれませんが職場の同僚に「今月、友だち何人増えた?」「困ったときに相談できる友だちが何人いる?」みたいな会話をする時があります。昔から変わらない人付き合いの価値を、今の時代にフィットさせ、豊かさを定義する、それだけで十分だと思います。 

住み継ぐことで生み出した価値とバトンを未来へつなぐ

白石:しらいし設計室の理念は、「豊かな日常をともにつくり、すべてを未来へつなぐ」ことです。高島さんも私も、未来へつなぐ家づくりを体感をしているのは大きな武器になると思うんです。

高島さん:そう、いつでもバトンを渡せますよね。リノベーションをしなかったら住み継ぐ人はいないだろうけど、今の状態で「この家、欲しい人?」って聞くと、「買いたい」と言ってくれる人がいるんですよ。

普通、家族以外の人は、あまり家に入れないじゃないですか。だけど僕の場合は、選手だったり知り合いがいろいろと来るから、内覧会を常にしてる感じですね。だから、住んでみたいと思う人が出てくるのは当たり前なんです。

白石:日常を地域に開くのは、素敵な試みですね。リノベーションして暮らす中で、家の価値が上がってるようにも感じます。実際に家を訪れて、暮らし心地を体感すると、その価値がすごくわかるんですよね。

高島さん:「こんな家づくりをして、こんな価値がある」って言えるんですけど、こういう選択肢があることが、鳥取ではあまり知られてないと思うんです。

マンションや新築を買って、どんな家具を置くかというような「足し算」をイメージする人が多いですよね。でも僕は、バトンを渡そうとしてるんで、「引き算」を考えてます。

住まいには、自分の趣味のものがたくさんありますよね。それらが全部なくなったときに、残っている家の価値を次の人に渡すことが大切だと思うんです。

白石:価値をつくるという高島さんのお話は、私たちの設計室が行っている住み継ぎのプロジェクトが目指すところと合致します。バトンを渡したとして、次はどこに住みたいと考えていますか?

高島さん:この先どこで働くか次第、海外かもしれないし、自分でも分からないですからね。常に選択肢があり続ける生活をしたいので、遊牧民のように仕事をしてるかもしれません。

選択肢は安定だと思うんです。安定の定義は、この数年で変わっていてきていて。大学で学生のみなさんに話しをするときには、安定は「選択肢の数」だって伝えているんです。自分が選べる状態が安定だと。

白石:新しい考え方ですね!ガイナーレの事業も、サッカー以外の分野に広がってきていますか?

高島さん:サッカークラブには、試合を運営する人はいても、事業をつくる人が少ないんです。「あれってこういう価値があるよね」「こうしたら解決するよね」とスポーツクラブの強みをいろいろな角度で見て事業を組み立てる、僕はその立場で結果を出すことで自分のバリューを上げようと思っています。

実際、ガイナーレ鳥取は、他のクラブにはない芝生事業の売上があります。これからはサステナビリティ領域で企業と一緒に地域課題や社会課題解決のアクションを起こそうと思っています。

白石:価値あるものの姿が地域から消えないように、仕組みをつくっているんですね。

高島さん:そうです。僕はもともとサポーターだったから、一番嫌なことは目の前にあるクラブがなくなること。だからクラブが在り続けるために事業の仕組みづくりに力を入れたい。そして、子どもに「パパは何のために仕事してんの?」と聞かれたときに、答えられる理由をいつも体現する大人でいたいんです。

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高島さんの自分らしい生き方を実現するためのリノベーション。住み継いだ家は、地域の人が集い、支え合い、地元の魅力を再発見する場にもなっています。ホームインスペクションとプロの設計のもと、空き家によみがえらせた価値のバトンを、未来へ受け渡していく。SAKAE HUBでの暮らしは、豊かな日常へのヒントを教えてくれます。


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