ブロッコリー農家の高見 滋さん、妻の法子さんは、2人のお子さんと滋さんの祖母との5人と猫1匹暮らし。広い古民家をリノベーションして、住居と法子さんの営む美容室を作りました。高見さんのご自宅に伺い、ライフステージやお子さんの成長とともに変化する、豊かな日常のヒントを見つめました。
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白石:息子さんも、すっかり大きくなりましたね。
法子さん:9歳になりました。家づくりの話を進めたのは妊娠中の10年前でした。母屋が完成した後に、「この金額でお願いできますか」って、美容室のリノベーションも相談したら、白石さんも一緒に壁を塗ってくれましたよね。

白石:そうでしたね。あの頃は、今高校生の私の娘が、ちょうど同じ9歳くらいだったんじゃないかな。二人で、竣工後のカニパーティーに参加させてもらいました。カニがゴロゴロ並んでいて、焼いたカニをいっぱい食べられる素晴らしい場でした。
滋さん:パーティーには、50人くらい集まったんです。そのあとも付き合いが続いている人も多いですよ。
法子さん:「カニ美味しいし行こうかな」みたいに、気軽な気持ちで県外から来てくれた友だちもいて。それがきっかけで鳥取に移住してきた友人夫妻と、今日の夜もM-1を見る会をやります。私も夫も、人を家に迎えて、ワイワイするのが好きなんです。
白石:高見さんの住まいは、地域に開かれた家になっていますね。どのような日常が紡がれているのか、お二人が大切にしている日常の豊かさをお聞きしたいと思います。
家づくりのスタートは、未来の日常を想像するところから
白石:家をリノベーションして住もうと考えたきっかけは、何でしたか?
滋さん:ここは父の実家なんです。父は大学卒業後、就職先のある鳥取市に家を建てて、ずっと住んでいたので、僕もそこで育ちました。
白石:滋さんにとっては、週末や長い休みに帰省する、おじいちゃん・おばあちゃんの家だったんですね。
滋さん:僕たちが結婚してすぐに、仕事の事情で住む家を探すことになって。祖母が一人で住んでいるこの家に、転がり込むことにしたんです。それまでは二人でアパートに住んでいたんですけど、経済的にも楽になるので、移らせてもらおうかと。
法子さん:最初は、夫が2階をDIYでリノベーションしました。「大工になれたら、楽しいだろうな」と言いながら、ホームセンターに毎日通っていたよね。

滋さん:押入れや壁を取って、8畳2間を16畳の大きな部屋にして、漆喰も塗りました。柱を抜かなければ、DIYでも大丈夫だと思い、調べながらやっていましたね。
法子さん:実は夫のお父さんも、退職後に実家に住もうと計画されていたんです。「おばあちゃんも住んでいるし、そういうことなら」と、お父さんがここをリノベーションしてくださることになりました。それで、業者さんを探し始めたんです。
白石:しらいし設計室に依頼すると決めた理由は、何でしたか?
滋さん:家づくりははじめてだから、何から取り掛かっていいか全くわからない状態でした。「こういう風に始めましょう」というようなことも、アドバイスしてほしいと思っていました。
でも、ネットで検索して5社に問い合わせてみると、きちんと取り合ってくれたのは、白石さんと、もう1社だけだったんです。それで2つの会社に、設計案を出してもらいました。
法子さん:どちらの案もすごく良かったけれど、白石さんのプランにより魅力を感じました。しかも白石さんは、案を2つ出してくださったんです。
白石:当時、しらいし設計室で働いていた遠藤と私が、一案ずつを出して、最終的に遠藤の案を採用してくださいましたね。
滋さん:正直なところ、建物の設計図だけ見ても、僕らには日常のイメージが湧いてこないんです。でも、白石さんは、立体模型やスケッチも見せてくれました。それで実際に「こんな感じの生活になるのかな」と分かったから、お願いしようと決めたんです。

とにかく寒くてしょうがない!困りごとをありったけ共有する
白石:リノベーション前に、当時の住まいで困っていることや心配事、こんな家にしたいという希望を書き出してもらいました。「壁ボロボロ」、「お風呂からアリが出た」、「薪ストーブがほしい」など、思いを率直に伝えてくださいましたね。
滋さん:家族みんなで、わいわい話しながら考えて、アンケート用紙に書き込んだんです。古い家なので、室内がとにかく寒くてしょうがない。キッチンも土間だったり、風も強かったり。それをなんとかしてほしいと、一番にお願いしました。
法子さん:農作業を終えたおばあちゃんが勝手口から土間に入ってきて、靴をはいたままお昼を食べる、そんな昔ながらのスタイルでした。引っ越してきた夏には分からなかったけど、冬になるにつれて寒さを実感するようになって。隙間から雪が吹き込む日もあるんです。コートを着てご飯を食べていました。


白石:それは寒い!土間から家の中に上がって、風呂場に行く動線でしたね。
滋さん:お風呂場はタイル張りで、すごく寒かったんです。
法子さん:おばあちゃんが「お湯を溜めておいたけえな」と言ってくれるのは嬉しいんですけど、私たちにとっては湯船のお湯が少なくて……。ちょっとでも水のかさを増すために、「一緒に入ろう」と夫婦で話してました。別に新婚さんだからではなくてね。
滋さん:水圧が弱いから、シャワーのお湯もちょろちょろって出てくるだけだったんですよ。
白石:リノベーションした家に住み始めて、暮らしが変わりましたか?
滋さん: もちろん!とっても暖かくて、超快適です。
最初は風呂敷を広げて、もっとたくさんの部屋をリノベーションしようとしていました。でも白石さんと相談して「場所を絞って、断熱をしっかりする。予算もぎゅっと締めよう」という方向で進めることにしました。冬は薪ストーブだけで、暑いくらいになります。

白石:それは嬉しいな。廊下を外壁に見立て、 断熱ラインを手前にして、その外側は天井も取っています。大工さんには床下に潜ってもらい、断熱材を入れてもらいました。見た目は変わらないけれど、和室の畳の下にも全面に断熱材が入っているんです。床下の湿気がすごかったので、それを防ぐためにコンクリートも打設しました。
法子さん:キッチンが土間ではなくなったのも、すごく快適です。ちゃんと靴を脱いで、料理したり食べたりできるようになりました。
なにより、今の家では安心して暮らせています。私が里帰り出産している間にリノベーションが完成して、子どもが生後3か月ぐらいの頃に、戻ってきました。タイルで段差のある前のお風呂のままだったら、子どもをお風呂に入れることも、怖かったんじゃないかなって思うんです。

余白のある日常の中で、人とつながる。地域や世界に窓を広げて
白石:農業をしている高見さんと美容師の法子さんの生活は、職住一体の暮らしです。私も以前、自宅と事務所が同じ場所だったので、職住一体の日常を送り、日常の豊かさを体感してきました。
法子さん:自営業だからワークとライフを分けられないんです。その環境が、子育てをするにも、すごくいいなって感じています。お父さんだから、お母さんだからみたいな、固定観念にとらわれず、フェアに自然な感じで子どもに関わることができるので。
滋さん:こんなラッキーなことはない!
法子さん:今は、時間にも気持ちにも余裕が生まれています。あるとき、子育てをはじめたばかりの友だちが「涙がでちゃう」って話してくれたことがありました。まだお子さんが2か月か3か月くらいだったから、ずっと気を張っていたんだろうと思うんです。
すぐに、「うちにおいでよ」って声をかけました。それができるのも、日常に余白があるからなんです。
滋さん:美容室に来た親しいお客さんが、そのまま母屋に移動して、ご飯を食べていくこともありますからね。
人が集まれる場所にしたいという気持ちは、家づくりの当初から持っていたんです。リフォーム前と後にカニパーティーを開いたら、小さな子どもから大学生、大人まで、ワサワサ人が来て、楽しめる場になりました。

白石:滋さんは、農家と世界各国の人をつなぐ「Workaway」に登録し、農場での暮らしに関心を持つ人を受け入れていましたね。
法子さん:それがきっかけになって、しょっちゅう滞在しているイタリアの女の子もいます。もう5回か6回目になるかな。ドイツのカップルが、後日ファミリーになって、再度訪ねて来てくれたこともありました。
白石:海外の方が来られると、世界が広がりますね。
法子さん:田舎暮らしにはメリットもたくさんあるけど、子どもに限られた世界しか見せられない面もあると感じています。「こんな文化や、人種、考えの人がいるよ」と伝えて、広い世界を知ってほしい。だから、外から人が来てくれるなら、ありがたいことだって思っています。
子どもが大きくなってきたから、今度は私たちが、つながりのある人たちの国を訪ねてみたいですね。
「なんとかなる」、住まいは家族の安全基地。子どもたちの気配をいつも感じながら
白石:子どもたちにとって、家がどんな場所であってほしいですか?
法子さん:家庭や家族が安全基地であったらいいなと思いますね。
滋さん:子どもたちが家に帰ってくると、別の部屋にいても、「いるんだな」って気配でわかるんです。姿が見えなくても、家族の存在をお互いに感じながら生活することができています。

法子さん:最近は、リノベーションして子ども部屋を作ろうかな、どうしようかなって考えています。
部屋数はたくさんあるので、そのまま使おうかと思うことも。2階をリノベーションして部屋を作っても、子どもには18歳で家を出てほしいという気持ちがありますし、私たちも年を重ねるから、2階に上がって生活することもなくなるのかなと……。
滋さん:子ども部屋を作るとしたら、家の形はまた変わっていくんだろうな。
白石:子どもが自分の部屋をほしくなる時期はいつか来ますよね。これからの時代は、自分たちでDIYで仕切りを作り空間を確保するなど、いろいろな選択肢がありますよ。
私も「巣作りプロジェクト」と名づけて、子ども部屋のリノベーションをしてきました。ライフステージの変化に関われるのはとても嬉しいことです。
高見さんは、今、家で過ごすどの時間が一番好きですか?
滋さん:仕事が終わる夕方かな。

法子さん:「午後4時くらいに仕事を終えて、好きなご飯を作って、早めにお風呂に入るのが最高」と、言っていたよね。
白石:広い家や田畑があって、農業ができるのはいいですね。
滋さん:もともとこの家は、何代も使うんだからって考えて、作られたのかもしれません。2階にも床の間があって、2世代や3世代で暮らすのを想定した間取りになっているんです。
鳥取市に住んでいる父も、週に2、3回は、畑や田んぼの世話をしに来て、集落の飲み会があるときには泊まっていくんですよ。
法子さん:私の実家の母も冬の間だけ、ここで一緒に暮らしています。「部屋があるから使ってもらおう」、そういう余白があるのは、ありがたいなと思います。
白石:今後、この家でどのように暮らしていきたいですか?
滋さん:農業を10年続けてきたので、新しいこともやってみたいと思っています。どう形を変えていけるか、今年は一旦休憩しながら考える1年になりそうです。
白石:仕事を休憩できるのはすごいですね。
法子さん:そんなふうに考えているって、今初めて聞いたんですけど(笑)。彼の人生ですからね。まあ、「なんとかなる」と思っています。昔から、周りの人がインパクトを感じるような状況になっても、私はあんまりピンとこないんです。付き合い始めたころも、彼は……。
滋さん:居酒屋で働くフリーターだったね。
白石:働き方や暮らし方を変化させることができるのは、本当に素晴らしい。生涯、変化しながら日常をつくっていく、それが1番おもしろいと思っています。
法子さん:家と畑があるのは大きな価値ですし、これまでの暮らしを通じて、どんな辛い状況でも「なんとかなってきた」っていう体感があるんです。

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受け継いだ家を住みやすくリノベーションして、家族の気配を感じながら過ごす幸せな毎日。高見さんご一家は、そこで生まれる余裕や余白のある日常を、訪ねてくる人たちと共有しています。人や地域に開かれた明るい住まいは、ライフステージとともに変化する豊かな日常を作り出してくれそうです。

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